渡辺(以下:W)、合渡(以下:G)
W:さっきまで女性のお客さんとワイ談で盛り上がっていたところ、恐縮です。まずはここがどんな店なのか、教えてください。
G:そういう入り方、やめてください!
えーとですね、いつも知っている誰かがいて、ここに来ればなんか面白い時間が過ごせそうだという、ワクワク感を大事にしたいと思っています。
内装などに関しては、僕の頭のなかがそのまま形になったようなお店ですね。
コンセプトは「アメリカの勉強できないボンボンが、実家の地下のガレージを勝手にいじって、チャラい友だちの溜まり場にしている」です。
伝わりにくいですか、そうですか。
カッコイイけどおしゃれじゃないというか、ボンクラをベースに少しだけセンスをふりかけたというか、そういう感じです。
グリーンの工具入れを引き出しがわりに使ったり、「聖闘士星矢」の下にJBLのクラブ用の大型スピーカーが横に置いてあったり。
W:なんでサロンなのに「おしゃれじゃない」なの?
G:僕自身がおしゃれなの、好きじゃないからですね。
いわゆる「おしゃれ」な人って、たとえばモード系の雑誌からそのまま出てきたような人は、実は没個性ですよね。同じような人がたくさんいる感じ。
そういうの、好きじゃないんです。
結局そういう人って、モードっぽい、おしゃれっぽい、そういう◯◯っぽいという範囲から抜け出せないんじゃないでしょうかね。
いかにも今風な美容室で、おしゃれっぽい髪型とか、やっても面白くないでしょう?
あ、そーいう意味では、このお店はいわゆる美容室っぽくはないですね。
それはよく言われます。
W:秘密基地っぽいですものね。でも、なんだか女子受けしなさそうではあります。
G:いやいや、女性のお客さんとかは、この内装を見て「かわいい」とか言いますよ。ま、そのうち痛くても「かわいい!」とか言い出しかねないですけどね、彼女たちは。
でも、女性向けのブランドラインでも、インダストリアル感を取り入れる傾向がありますから、方向性としては間違っていないのかな、と。
偉そうに語っちゃいましたね。
W:そうですね。謝ってください。
G:ご、ごめんなさい。
ついでに言ってしまうと、このお店は僕の「好き」で構成していますので、その代わりにヘアスタイルなどでは押し付けはしないんです。
それぞれに個性があって、その人独自の「好き」があって、そういう部分に寄り添いたいと思っていますから。
だから、お客さんから「こうしたい!」というリクエストがあれば、他のお店では躊躇しちゃうようなラインも、一緒になって踏み越えちゃいます。
坊主っぽいショートと、ショートは違うじゃないですか。
微妙な部分まで共有するためにも、先に僕の「好き」を前面に出しているのかもしれませんね。
そういう部分でも、普通の美容室っぽくはないですね。
だから、美容室嫌いの人が結構たくさん来店してくださいますよ。
W:お客さんたちは、やっぱり少し個性的な人が多い?
G:そうかもしれません。
男女でいえば、新規のお客さんは男性客が多いですね。
ただ、何度も通ってくださるお客さんは、男女比で6:4くらい。
男性客は、職業でいうとIT系、メディア、音楽、ファッション業界なんかが多いかな。
いわゆる「ザ・いまどきの業界人」なんだけど、なぜだか美容室はメジャー感の強いところを選ばない。三軒茶屋の地下のお店であるここに足を運んで来れます。
W:なんだか湿っぽくなってしまったので、話題を変えます。お店のシステムとかを教えてください。
G:……湿っぽかった?
えーっと、基本的に、完全予約制です。
男性客が多い理由でもあるのですが、平日は深夜0時閉店です。
カットのみなら22時30分入店可能なので、仕事帰りにいらっしゃる方も多いです。
あと特徴として、担当者が最初から最後まで、カットもパーマもカラーも、すべて行います。
男性のカットのみだとしても、たっぷり90分は取っています。
最初の段階で、たっぷりカウンセリングをしますし、流れ作業的な感じはしないはずです。
W:なぜ、そんなに時間をかけるの?
G:最初にも言いましたけど、この場所に楽しみに来てほしいから、ですね。
僕も、親しくなったお客さんに会いたい。だから、せっかく来て来れた人とは、ゆっくりと過ごしたい。
単純計算ではあるんですけど、90分でカットが5500円(税抜)ですから、15分1000円のカット屋さんよりも、時間あたりは安いんですよ!
お客さんには、髪を切るという作業ではなく、リラックスする時間を過ごしに来てもらいたい。
これ、本当です。
W:髪を切るよりもリフレッシュが大事?
G:強く主張しておきますが、もちろん技術はあってこそ、です。
カットにしろカラーにしろ、僕以下スタッフも技術は当然あります。
その上で、リフレッシュを上乗せしてもらいたい。
この店だから、なんだか楽しい気持ちになれた、そう思われたいんです。
たとえば、家に帰ってから「やっぱりもっと切りたかったなあ」と感じたら、それはすでにストレスですよね。
そこを回避するためにも、時間をかけて会話して、そのお客さんの望むものを一緒に探すんです。
W:そこまでもホスピタリティを、スタッフにも求めますか?
G:もちろんです。
最初から最後まで1人で受けもつことも含めて、今まで面接に来てくれた人には説明します。
そういう人じゃないと採用できませんから。
ただ、最初からできている人はいませんね。
相手から感じ取る力や、願望を引き出す会話力とかは、やっぱり上手にはできていません。
僕は、技術だけではなく、その人のためのオーダー美容師になりたいんです。その人が求めている美容師にこそなりたい。
だからお客さんによって、声のトーン、会話のテンポ、言葉使いまで変えるように心がけています。
ときに友人のように接したり、ときに孫のように甘えたり!
W:ちょっとうっとおしいです。新人さんが就職を希望するとして、接客がそこまで上達するまで待ってもらえるのですか?
G:育つのは、待ってあげられます。
ただ、求めるものは常に高いかもしれませんね。
僕の実体験などは話してあげられるし、指導もできますが、最終的には自分のやり方を見つけ出してもらわないといけません。
そういう意味で、唯一無二のプロであってほしいから。
美容業界は、職人の業界でありながらプロ意識が低い人が多いように思えます。
お金をいただく以上、毎日自分にできることは常にやり切る。その上で上達してもらわないと。
厳しく叱ったりはしませんけど、求めるラインは厳しいといえるかもしれません。
そうだよな?(と、店内の若いスタッフに振る)
– さーせん、これっぽっちも聞いてませんでした。(と、遠くからスタッフ)
W:こんな感じなんですね?
G:…………こんな感じです。
………
…
終わり